今から2年前のこと。本社にある新入社員が入社した。その2ヶ月後、本社より連絡があった。内容は、この新入社員を那須に出向させるので技術員として育ててほしいとの事。我社は電気を扱う企業といってもFA制御システムを主業務としている。このFA制御システムをマスターするには最低でも4、5年は掛かるのが常である。彼を育て上げるには当然それぐらいは時間は必要と本社には伝えた。本社の意向は最低でも3年は那須で経験させたいとの事であった。

6月に入り、新入社員の彼はこの那須の地に着任した。話し方、振る舞い、彼はまだまだ学生気分が抜けていなかった。彼は制御技術グループに所属させ、まず徹底的に電気の基本を学ばせ、その後CADによるハード設計、そしてソフト(プログラミング)設計と実践的に指導していった。

彼には配属当初から常々伝えてきた事がある。それは、学生時代は月謝を払って勉強してきた。社会人になれば給料を貰いながら勉強をさせて貰えること。これが学生と社会人の違い。社会人では自分の振る舞いに責任が生じる事など。私は彼に社会人として当然ではあるが決して忘れては欲しくない事を伝えたかったのである。

那須に配属して1年後。彼の技術員としての進捗状況をチェック。学んだ事を基本通りこなしている。周りの先輩達とも溶け合い順調のようである。
それから半年後、本社より思わぬ連絡が入ってきた。それは彼を本社に戻したいという事であった。彼はまだ技術員として一人前には育っていない。私は本社に、彼はまだ育てあげていない。戻すには早すぎる旨を伝えた。しかし本社にも事情があるようで、結果、彼は丸2年で本社に戻る事となった。

彼本人も志半ばでの本社復帰に戸惑い、一時期ふて腐れては仕事に対する意欲が全く無くしてしまい、周りの者たちにも不愉快な思いを与え始めていた。
彼が那須で過ごしてきた2年間を本意では無いとはいえ嫌な気持ちで終わらせたくはなかったのであろう。ある者が彼に色々諭してくれたようであった。私も一つの思いがあり彼にはこの2年間の思い出を文章にまとめる様指示した。

彼が提出した文章の一部抜粋したものを紹介します。

那須に来て技術面、生活面で多くの事を学ぶ事ができ充実した毎日を過ごす事ができました。技術面では色々なソフトや、実際に現場で使う機器を扱う事で、機械がどの様に制御されているかなど多くの事を知ることができました。設計の仕事では、色々のお客様の仕事に関わる事ができ、打合せから、ハード設計、ソフト設計、試運転のやり方まで幅広く学ぶ事ができました。

最後に行ったお客様の仕事は、一から出来る仕事だったので極力自分だけでやってみようと思いましたが、やっぱり仕事とはそう簡単なものではありませんで、先輩方のお力をお借りして何とか最後まで終わらせる事ができたという感じです。一人でするとなると、まだまだ自分に知識が足りない事に気付く事ができたので良かったと思っています。那須では皆さんがまとまって一つの仕事を終わらせるという雰囲気を感じ、職場ではこういった雰囲気がとても大事な事だと思いますので、これを見習って仕事ができる様頑張ります。

20歳の若者の巣立ちの物語でした。今後も色んな場面で上手く旅立ちができるよう...。本人らしく頑張ってくれる事を望みます。

顧問 川上